00 / ABOUTこの物語について
それは、三人がたまたま同じ場所にいたことから始まった。スリの若者、異端の学者、目的を持たない発明家。接点などどこにもなかった。
だが彼らの能力は、奇跡的に噛み合った。学者の理論、技術屋の装置、スリ師の手技。三つが揃ったとき、誰も試みたことのない「仕事」が可能になる。
これはシビアな世界に生きた男たちの、一瞬だけ輝いた青春の記録だ。
RUNNERS
スラム街を舞台に活動する三人組の裏稼業チーム。チームの名は彼ら自身がつけた。名乗る必要は一度もなかった。
一人では何者でもない。しかし三つが揃ったとき、不可能は可能になった。
01 / CHARACTERS登場人物
スラム育ちのスリ師。背が低いことを常に馬鹿にされてきた。「俺は大人だ」が口癖で、酒場で安酒を煽るのが日課。虚勢を張らなければやっていられない。しかしその指先は、誰も追いつけない領域にある。
チームでは雑事を全部押しつけられる。いつも怒鳴っているが、飯だけは作る。
接近・実行学会から完全に無視されている異端の学者。空っぽの講義室で誰もいない聴衆に向けて熱弁を振るう日々。理論だけは完璧だ。あとは誰かが実行してくれれば。
フィンに怒鳴られても「君の指の精度がもう少し上がれば……」と返すだけ。眼鏡を直す動作が癖。
理論・設計ガラクタに囲まれた工房で、実用性を無視した発明を続ける技術屋。「面白いから」が唯一の動機。最新作は、密閉された容器の中身をそのまま取り出す装置。何に使うかは考えていなかった。
騒がしい日常の中、短く「うるさい」とだけ言う。
装置・技術
Character Design Sheet — 三人の設計図
02 / DEVICEたまちぎり
元の装置はギアが純粋な興味だけで作ったものだ。密閉された容器を破壊せずに中身だけを取り出せる。卵の殻を割らずに黄身を出す、そういう装置だ。
フィンはこれを「たまちぎり」と勝手に命名し、自分の用途に合わせて改造を要求した。グローブ型の携帯式フィールド発生装置として生まれ変わった。
フィンの指先が「掴む」形を作ったとき、その空間にフィールドが形成される。素早くターゲットを通過させると、フィールド内に対象物が収まる。一連の動作は目にも留まらぬ2連アクションで完結する。
これはフィンの技量あっての盗みだ。装置があれば誰でもできるわけではない。
Device Technical Sheet — たまちぎり 第二世代
03 / DAILYチームの日常
三人は友達ではない。一人でいるのが一番めんどくさくなくていいと思っている男たちが、一人ではできない仕事のために組んだだけだ。
「また俺が全部動くのかよ! お前らただ座ってんじゃねえよ!」
ギアは無言で装置をいじり、アーサーは「君の指の精度がもう少し上がれば……」と理論を返すだけ。
フィンの苛立ちが爆発するのは日常茶飯事で、二人は態度を改めない。ギアは時折短く「うるさい」とだけ言い、アーサーは興味なさげに眼鏡を直す。
料理は雑な男飯。薄いスープに、硬くなったパンと塩気の強い肉を適当に放り込んだもの。
それでも三人でボロいテーブルを囲むと、口喧嘩が一時的に止まる。
「いただきます」も「ごちそうさま」もない。ただ黙々とスープを啜る音だけが響く。口が塞がっている間だけ、三人が同じ場所にいるというのに静かな時間があった。
04 / BLUEPRINT世界観設計図
スラム、チームの関係性、技術の構造、依頼の種類、そして物語のテーマ。三人が動く世界の全体像。
World Blueprint — 一瞬の接続が世界を動かす
05 / STRUCTURE物語の構造
読者に最も近い立場のキャラ。コンプレックスは彼全体を包む劣等感の象徴で、虚勢と酒はその発露。物語の冒頭と末尾にクローズアップされ、変化の受け皿となる。
物語のトリックスターかつ狂言回し。知の探求者として、最終的に力の危険性を悟り封印を選ぶ。
装置という物語のSF的核を具現化する存在。純粋な創造意欲から生まれた発明が社会的責任を持つことを学び、自ら最高傑作を解体することを選ぶ。
シビアな世界に生きた男たちの、一瞬だけ輝いた青春の話。書くべきは若いフィンに起こったことだけでいい。大人たちはもう、そんなには変わらない。
06 / SYNOPSISあらすじ
三人は別々の行き詰まりの中にいた。フィンには技術だけがあり、アーサーには理論だけがあり、ギアには装置だけがあった。偶然の出会いが、それらを接続した。最初の仕事はスラムを牛耳るボスへの実験だった。うまくいった。
チームを組んでも、依頼はしょうもないものばかりだった。浮気者を大人しくさせる、商売敵の気力を削ぐ、その程度。三人の暮らしは騒がしく、フィンが雑事を押しつけられ、飯だけが静かだった。
政府の諜報機関が現れた。独裁国家の将軍が戦争を起こそうとしている。阻止できるのは彼らだけだと言う。命がけのミッション。大使館のパーティ。一瞬だけ、三人の連携は小気味よく噛み合った。
戦争は回避された。しかしあまりに命がけだった。こんな技術、ちょっと生活や自尊心が潤う程度を期待していたのに、国の安全に関わるようなことに使われるんじゃあ自分らの安全のリスクが高すぎる。装置は壊された。核がなければ、三人が集まる理由もない。
数日後、フィンはいつもの酒場にいた。安酒を静かに飲んでいた。「俺は大人だ」とは、もう言わなかった。それだけのことだった。しかし確実に、以前とは違っていた。
Storyboard — 邂逅から解散まで、九つの場面